今月の一冊アーカイブ
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ピートのスケートレース 第二次世界大戦下のオランダで
ルイーズ・ボーデン/作 ニキ・ダリー/絵 福音館書店 2011.11
ISBN:4-8340-2667-2 タイトルコード:1000000846059
主人公ピートはオランダに住むスケート好きな少年で、将来の夢はオランダ最大のスケートレースに出場することでした。ある日、ピートは祖父から、知り合いの少女とその弟を、一緒にスケートで滑りながらベルギーの親戚のもとに送り届けるという重要な任務を任されました。
当時のオランダはドイツの占領下にあり、少女たちの父親はイギリスと無線で通信をした罪でドイツ兵に連行されたのです。家族にも危険が及ぶかもしれず、少女たちは早急に避難する必要がありました。幸い、スケートをすることは許されており、水路が凍りつくと、誰もがそこを滑っていました。厳しい寒さの中、道のりは長く、行く手にはドイツ兵が待ち構えています。命がけでスケートで駆けて行くピートたちの運命は…?
読んでいる間に、滑っているピートたちの緊迫感が伝わってきます。終盤まで息もつけない場面が続きますが、何度も難所をくぐりぬけるピートたちの勇気とスケートの力に心を打たれます。オランダの風土やスケートの歴史もわかる絵本です。
やぎとぎんのすず
八百板 洋子/文 小沢 良吉/絵 鈴木出版 2006.7
ISBN: 4-7902-5147-0 タイトルコード:1000610039238
お百姓さんに銀の鈴をつけてもらったヤギが、嬉しくて跳ね回っていると、茨(いばら)の茂みがありました。親切な茨(いばら)が、「ここはとおれないよ。わたしには、するどいとげがあるよ」と教えてくれました。けれどもヤギは、茨(いばら)の助言を聞かずに無理に通り抜けようとして、鈴を茂みに落としてしまいます。茨(いばら)に鈴をとられたと思って怒ったヤギは、のこぎりに、茨(いばら)を切るように頼みます。茨(いばら)は何も悪くないので、のこぎりが断ると、ヤギは火のところへ行って、のこぎりを燃やすように頼みますが・・・。
ヤギはその後も、次から次に仕返しをするように頼みますが、誰にも聞いてもらえません。自分が悪いとは露ほどにも思わずに、人のせいにしてばかりのヤギ。もう一度、大好きな鈴をつけることができるでしょうか。ラフな線と淡い水彩の絵が印象的な絵本です。
あおのじかん
イザベル・シムレール/文・絵 石津 ちひろ/訳 岩波書店 2016.6
ISBN: 4-00-111259-7 タイトルコード:1000001488859
日が沈み、夜がやってくるまでの時間は、「マジックアワー」、「ブルーアワー」と呼ばれています。そんな空が青に染まるひとときを、動物たちはどのように過ごしているのでしょうか。世界のあちこちの青に染まった風景と動物たちの姿が、細かく繊細な線で描かれています。アオカケスの鳴き声から始まり、徐々に夜の闇に包まれていく青のグラデーションの美しさに目を奪われます。
こんなにもいろいろな青があるのかと驚かされます。静謐で美しいフランスの絵本です。
とんでとんでサンフランシスコ
ドン・フリーマン/さく やました はるお/やく BL出版 2005.8 ISBN:4-7764-0135-5 タイトルコード:1000510042708
サンフランシスコのビルの屋上にある、アルファベットの「B」の形をした看板に、シッドとミッジという鳩のカップルが暮らしていました。他の鳩たちは「文字の中に巣をつくるなんて」とばかにするばかりでしたが、二羽は構わずに巣をつくり続けました。ところがある日、シッドが朝ごはんをついばみに行っている間に、「B」の看板が消えていました。ミッジも、巣の中の卵も…。シッドは必死に家族を探します。荒々しい嵐に遭い、道ばたの溝に落ち込み、心も落ち込んだ彼に救いの手が…。
家族を守ろうとする鳩、鳩をとりまく人々の心あたたまる物語です。舞台背景のサンフランシスコの大空、美しい街並みも印象的です。
おっとせいおんど
神沢 利子/文 あべ 弘士/絵 福音館書店 東京 1995.8
ISBN:4-8340-1329-4 タイトルコード:1005010390454
2013年8月に行われた、和白図書館開館10周年記念のおはなし会で読まれた絵本です。
夏が来て、北の島に集まってきた、おっとせいたち。赤ちゃんのおっとせいたちは、母親のおっぱいを飲んで大きくなり、泳ぎを覚え、やがて秋になると、群れと一緒に遠くの海を目指して旅立ちます。
題名に「おんど」と入っているとおり、文章は歌詞のようです。夏から冬までのおっとせいの様子が、歌のような調子の良い言葉で語られています。海でのびやかに生き生きと過ごすおっとせいと、その周囲の生き物たちを、表情豊かにユーモラスに描いた絵が、文章と一緒になって、心地良さを作り出しています。
巻末には、絵本の文章を歌詞にした楽譜もついています。その楽譜で歌いながらページをめくるのも良し、また、そうでなくても楽しく気持ちよく読み進められます。
ガンピーさんのふなあそび
ジョン・バーニンガム/さく みつよし なつや/やく ほるぷ出版 1978
ISBN:4-593-50030-3タイトルコード:1005010025003
2003年8月9日に行われた、和白図書館の第1回目のおはなし会で読まれた絵本です。
ガンピーさんは川のそばに住んでいて、ある日、自分の小舟に乗って出かけます。声をかけてきた子どもたちや動物たちが順々に乗り込み、ガンピーさんの舟はいっぱいに。さて、川を下っていきながら、舟の一同はいったいどうなるのでしょう。
いっしょにいきたい、と子どもや動物たちが投げかけるたびに、いいとも、と答えるガンピーさん。そのやりとりの繰り返しがゆったりと耳にとても心地よく響きます。川の岸辺の草木の緑や、日差しのきらめき、そして川の水の気持ちよさを想像させてくれる軽やかなタッチの絵が、爽やかさを伝えてくれます。
王さまになった羊飼い
松瀬 七織/再話 イ ヨンギョン/絵
福音館書店 2018.3 ISBN:4-8340-8344-6
チベットの昔話です。
貧しい羊飼いの男の子は、自分も空腹なのに、うさぎに食べ物を百日も分け続けました。うさぎは実は神様で、お礼に男の子に望みの宝物を授けるといいます。すると、男の子は、話し相手がいなくても寂しくないように、動物の言葉が分かるようにして欲しいと願うのです。
男の子は、動物の言葉が分かるようになったことで、色々なことに出くわします。その様子を見ていると、男の子の生来の優しさは、一見災いの元にも見えます。しかし最後には王さまとなり人々と動物とともに幸せになる、という結末には、昔の人々の人生や世の中に対する願いが込められているのかもしれません。
チベットの風景や風俗を色彩豊かに伝えてくれる絵が、お話の世界に厚みを持たせてくれています。
ほんとさいこうの日
レイン・スミス/作 青山 南/訳 BL出版 2017.4 ISBN:4-7764-0775-1
おひさまがぽかぽか。猫は花壇にねっころがり、犬はビニールプールで水遊び。シジュウカラは餌箱にいっぱい入れられた餌を食べ、 リスはトウモロコシにありつくことができました。暖かい春の日、それぞれが最高の日を過ごす中、大きなクマがやって来て…。 この本の作者レイン・スミスは、アメリカ、コネティカット州在住で、100年前に建てられ今は廃校になった校舎で、文章や絵をかいています。 ときどき、森からクマが現れて、窓のすぐ外にある巣箱をあさっていくそうです。そんな光景をよく見てクマに愛着をもっているからでしょうか、 絵本のクマの表情や動作はどこかコミカルで憎めない無邪気さにあふれています。 絵本を読みながら、春の景色と動物たちの「さいこうの日」を一緒に味わってみませんか?
のせ のせ せーの!
斉藤 倫/文 うきまる/文 ブロンズ新社 2022.4
ISBN: 4-89309-705-7
「のせ のせ せーの!」と唱え、ページをめくると、次々に不思議なことが起こります。
女の子の真っ白なワンピースに、野原に咲く花々がのって花柄に。
男の子の持つソフトクリームが蟹にのってヤドカリに。細かく描きこまれた絵の中で、意外なものが次々に生まれます。
ありえないけど、あったらいいな。そんな想像の扉を開いてくれる一冊です。
おばけのひっこし
さがら あつこ/文 沼野 正子/絵 福音館書店 1989.6 ISBN:4-8340-0878-9
昔、ある身分の高い男が、子どもがたくさんいたもので、住んでいる家が手狭になり、京の都に家を探しに行きました。理想の大きく立派な家をみつけたものの、そこにはお化けが出るという噂があったのです。しかし、そんなことはものともせず、さっそくその家で一夜を過ごそうとする男を脅かそうと、住み着いていたお化けたちは、次々と現れ出てくるのでした。
ふわふわと光るだけ、といった強そうではないお化けたちが、なんとかこの家に居続けたいという思いで男を驚かせる様子はいじらしく、読んでいると、お化けの側を応援してあげたくなりました。日本画風の筆遣いで描く愉快な場面の連続が、昔々の京の都に、こんな人間とお化けの珍騒動が本当にあったかもしれない、と楽しい想像を膨らませてくれる絵本です。
だごだごころころ
石黒 渼子/再話 梶山 俊夫/再話 梶山 俊夫/絵 福音館書店 1993.9
ISBN:4-8340-1218-2
書名の「だご」とは、「だんご」のこと。ある日、山の畑のおじいさんに、「だご」を届けたおばあさんでしたが、その「だご」はころがって、川を越えて暗い穴の中へ入ってしまいました。「だご」を追いかけて穴へ入ったおばあさん。ところがそこには鬼たちがいて、おばあさんに「だご」を作れというのです。おばあさんは無事に家へ帰れるのでしょうか。
美味しい「だご」を食べて満腹になる鬼たちの表情などは、どこか間が抜けていて、おかしみがあります。日本の山河を舞台に、おおらかな線で描かれた人や鬼たちが、昔話の世界を楽しませてくれます。
しんせつなともだち
方 軼羣/作 君島 久子/訳 福音館書店 1987.1 ISBN: 4-8340-0132-6
雪がたくさん降ってとても寒い日。こうさぎが食べ物を探しに行くと、かぶが二つ落ちていました。一つだけ食べて、もう一つは、友達のろばの家にそっと置いてきました。ろばも食べ物がなくて困っていると思ったからです。さつまいもをひろって帰宅したろばは、かぶを見つけるとやぎの家へ・・・。
友達から友達へ、優しさとかぶが巡り巡るおはなしです。助け合いの気持ち、友達を思いやる気持ちに心があたたかくなります。寒い日におすすめです。印象的な水彩の絵も魅力的です。
モグのクリスマス
ジュディス・カー/作 三原 泉/訳 あすなろ書房 ISBN:4-7515-2507-4
ねこのモグは賢いとはいえませんが、トーマス家の大事な一員です。ある日、モグが昼寝から目を覚ますと、いつもと様子が違います。みんな忙しそうで、モグにかまってくれません。そのうちに、大きな木がやってきたのに気がつきます。実はそれはクリスマスツリーでしたが、何も知らないモグはびっくりして逃げ出してしまいます…。
「わすれんぼうのねこモグ」シリーズの2作目です。とても甘えん坊で、トーマス家の人々の手をやき、時には失敗もするモグですが、表情豊かで愛らしいところが憎めず、最後に暖かい気持ちになれる絵本です。